医学的にもヨガは うつに効果的

 

 PubMed(パブメド)は、アメリカ国立医学図書館の国立生物工学情報センター(NCBI)が運営する医学・生物学分野の学術文献検サービスです。
 このデータベースで「うつ、気分の落ち込み(depression)」と「ヨガ(yoga)」のキーワードでAND検索を行い、検索結果を年次別にグラフ化しました。2000年を過ぎた頃からヨガがうつに及ぼす試験結果が多数報告されるようになりました。
 ヨガの本場インドでは、昔からヨガが心にも体にも好影響を及ぼすことは知られていましたが、世界的に医学的立場からヨガが心理状態に及ぼす影響が調査されています。


 

ヨガが精神状態に影響を及ぼす根拠 ー脳内GABA濃度の上昇ー

Yoga Asana Sessions Increase Brain GABA Levels: A Pilot Study.   J Altern Complement Med. 2007 May;13(4):419-26.   Streeter CC, Jensen JE, Perlmutter RM, Cabral HJ, Tian H, Terhune DB, Ciraulo DA, Renshaw PF.

 

  神経伝達物質の1つであるγ-アミノ酪酸(ガンマ-アミノらくさん)ー英語名 γ(gamma)-aminobutyric acid で通称 GABA(ギャバ)ー

抑制性シナプスに関与することが知られています。脳は「興奮性」と「抑制性」の相反する神経伝達物質のバランスよって機能しており、興奮性」が優位に働くと精神的に緊張状態になり、「抑制性」が優位に働くとリラックスします。また、脳内GABAの量を増加させる薬には、抗不安作用、抗痙攣作用、鎮静作用があります。

 上記の論文では、60分間ヨガ(アサナ)の練習をした場合には脳内GABAが27%増加したと報告されました。著者は、うつ等の低GABA量が原因の疾患に対してヨガは調査されるべきものと結論付けています。なお、脳内GABAの測定には核磁気共鳴現象を利用したMRSが用いられ、体に直接触れることなく検査が行われました。

 一方で、GABAは血液脳関門を通過しないことが知られており、GABAを食品から摂取した場合には、直接的に精神(中枢神経系)に影響を及ぼさないとされています。

 

 


ヨガがうつに対して効果ある臨床データ

Yoga for depression: a systematic review and meta-analysis.   Depression and Anxiety. 2013 Nov.30(11):1068-83.   Cramer H, Lauche R, Langhorst J, Dobos G.

 

 2013年に報告されたうつを対象とするメタ解析の論文をご紹介いたします。

この論文ではランダム化比較試験 (RCT) 12件 (合計参加者619人)のメタ解析を行っています。行われたヨガの内容は身体的な姿勢 (asana)、呼吸法(pranayama)と瞑想 (dyanam)の組み合わせです。対照試験の内容は、有酸素運動やリラックス音楽、マッサージなどです。

その結果、ヨガはうつ病性障害患者と高いレベルの落ち込みを持つ個人にとって補助治療の選択肢と考えられると結論づけられています。

 


投薬とヨガの組み合わせでより効果が得られる

A Breathing-based Meditation Intervention for Patients with Major Depressive Disorder Following Inadequate Response to Antidepressants: A Randomized Pilot Study.   J Clin Psychiatry. 2017 Jan; 78(1): e59–e63.   Sharma A, Barrett MS, Cucchiara AJ, Gooneratne NS, Thase ME.

 

 うつ病患者(major depression)(※1) に対して投薬(抗うつ剤)とヨガを同時に行った影響を調査しています。比較対照群は投薬のみです。その結果、投薬とヨガを合わせることで好結果(※2)が得られると報告されています。

 この論文で行われているヨガはスダルシャンクリアヨガ(Sudarushan Kriya yoga)です。8週間のプログラムから成り立ち、1週目は呼吸法の練習と補助的にアサナ(ヨガのポーズ)、瞑想、ストレス教育を毎日3.5時間行いました。2週目以降は週に1回1.5時間の呼吸法の練習をし自宅で毎日20-25分呼吸法を行いました。

 加えて、投薬とヨガを組み合わせた際の有害事象は無いと報告されました。

※1 DSM-IV-TRの定義による。 ※2 評価方法はミルトンうつ病評価尺度(HRSD-17)ベックうつ病調査ベック不安調査による。


脳内GABA濃度と気分には相関関係がある

Effects of Yoga Versus Walking on Mood,Anxiety,and Brain GABA Levels:A Randomized Controlled MRS Study.   J Altern Complement Med. 2010 Nov;16(11):1145-52.   Streeter CC, Whitfield TH, Owen L, Rein T, Karri SK, Yakhkind A, Perlmutter R, Prescot A, Renshaw PF, Ciraulo DA, Jensen JE.

 

 運動量的に同等であるウォーキングとヨガ(アサナ、アイアンガーヨガ)の効果を比較した試験です。対象は健常人で、ウォーキングまたはヨガを60分間を週3回、12週間行いました。その結果、ウォーキングでは変化は見られず、一方でヨガは気分が改善され不安が減少したと報告されました。加えて、改善の度合いと視床のGABAレベルは相関関係がありました。